先輩を訪ねて
Persons
現在はどのようなことをされていますでしょうか
超低地球軌道(very low Earth orbit、VLEO)と呼ばれる地上高度300 km以下の領域の衛星利用に向けて、宇宙用材料の開発と評価技術の高度化に取り組んでいます。VLEOでは、高密度の原子状酸素(AO)が約8 km/sで衝突して有機材料を劣化させます。また、大きな大気抗力によって衛星の軌道高度が低下しやすいことも課題です。そこで、AOによる材料劣化と大気抗力の両者を抑える新しい国産材料を、地上・宇宙での評価技術と一体で開発しています。この取り組みを通じて、地球をより近くから詳しく観測でき、スペースデブリや宇宙放射線のリスクも比較的小さい“宇宙すれすれ”のVLEOを有効活用できる未来に貢献したいです。
現在の活動(研究も含め)はどのようなきっかけで始められたのでしょうか
JAXA入構当初に、VLEO衛星での適用が期待される材料を実際の宇宙空間に曝露する実験「材料劣化モニタ(MDM)」に参加したことが、現在の研究活動のきっかけになっています。MDMは、国際宇宙ステーション(ISS)と超低高度衛星技術試験機(SLATS)「つばめ」にて実施したのですが、地上試験のみでは検出できなかった実宇宙環境特有の材料劣化挙動を見出すことができ、材料・試験技術のデザインを高度化するための有用なヒントが得られたと考えています。

真空複合環境試験設備:原子状酸素、紫外線、電子線といった宇宙環境因子を高真空下で同時に再現し、人工衛星などに用いられる宇宙用材料の耐久性を評価するための試験装置。(© 宇宙航空研究開発機構)
なお、JAXA入構のきっかけは、高校2年生のとき、卒業生のJAXA職員の方が講演に来られた際に頂戴した、「JAXAロゴの入った付箋」のJAXAロゴがとんでもなくかっこよく見えたことです!笑。ロゴ一つでも、人生が開けていくものですね。

現在の道へと進むきっかけとなった、JAXAロゴの入った付箋のケース。
大阪大学理学研究科・理学部時代に、心がけていたこと・大切にしていたことは何ですか
化学専攻の水谷泰久先生が、「よく実験し、よく考え、よく議論すれば」大抵の研究がうまくいくと仰っており、できる限りそのことを心掛けるようにしていました。所属研究室での指導教員であった高分子科学専攻の山口浩靖先生は、研究進捗についていつも前向きかつ丁寧に(しかもお得意のダジャレを高頻度に織り交ぜて!笑)議論してくださり、当時ご指導いただいたことは現在も大きな財産になっています。当時の日記を読み返すと、結構な頻度で山口先生の居室に議論をしに伺っていたようで(時々コーヒーまでご馳走になっていたようで)、お忙しいところご対応いただいたことを、改めて有難く思いました。
大阪大学理学研究科・理学部時代に印象的なエピソードがあればお教えください
学部時代は、理数オナープログラムに参加しており、学部2年生から研究室で実験に取り組む機会をいただきました。実験の面白さを早期に感じられたことに加え、モチベーションが高い同期・先輩・後輩に良い刺激を貰えたことがとてもよかったです。(現在学部生の方、是非ご検討ください!)
研究室時代は、週1回行われるリサーチミーティングに向けて、同期と時間を忘れて実験や研究進捗の整理に励んだのが大変良い思い出です。ときには夜遅くまで熱中し、早朝の鳥の鳴き声を聞きながら報告書を印刷して、少々緊張しながら自身の報告時間を待っていたあの日々があったからこそ―そこで化学研究に必要な考え方、姿勢を学ぶことができたからこそ―、現在も研究活動を楽しめているのだと思います。
理数オナープログラムについて、詳しくはこちら
これからの大阪大学理学研究科・理学部について、提言等ありましたらお教えください
阪大理学研究科・理学部と言えば、「勿嘗糟粕(そうはくをなむるなかれ)」の精神かと思います。先人の真似をせず、常に創造的であれ、というこの言葉は、原田明先生(現在、大阪大学名誉教授)をはじめ、阪大でお世話になった尊敬する全ての先生方に共通した姿勢のように感じます。この素晴らしい精神を、次世代へ着実に受け継いでいってほしく思います。(国立の研究機関で働いていると、「その研究はいつ何の衛星プロジェクトに役立つの?」と二言目には言われ、すぐ成果が出る応用研究に予算が付きやすいように感じますが、創造的な成果も出していけるよう私も尽力したく思います!)
今後やってみたいことはどのようなことでしょうか
宇宙用材料は、高度な性能・信頼性要求のため研究開発に多額のコストを要するにも関わらず、需要が限定的(典型的な少量・高付加価値型)であるため、材料創出と社会実装・安定的供給の間に、いわゆる“死の谷”と呼ばれる実用化を阻む大きな障害が生じやすい傾向にあります。宇宙と地上、双方の技術課題を解決するものづくりを推進し、“死の谷”を克服した前例を一つでも作り出したい、それが現在最大のモチベーションになっています。また、「宇宙産業の持続的発展」と「宇宙環境の保全」という相反する技術的・社会的要求を両立させる方法の確立にも貢献したく考えています。
理学友倶楽部の部員にメッセージをいただけますでしょうか
思想家の安岡正篤氏の言葉に、「何にしびれるかによって、その人は決まる。中江藤樹は、論語と王陽明にしびれていた。人間は本物にしびれなければならない。」というものがあります。阪大理学研究科・理学部で最先端の研究を進めておられる先生方は、生き方・考え方もかっこよく、「本物」であったと思います。「本物」の先生方に触れられる理学友倶楽部の繋がりが、新たな「本物」、「面白い研究」へと発展していくよう願っています。
最後にひとこと
この度は貴重な機会をいただき、ありがとうございました。阪大での6年間を思い出す良いきっかけとなりました。高分子科学専攻の橋爪章仁先生が仰っていて、今でもよく思い出す話が「壺」の寓話です。一つの壺があって、その中に大きな石を入れ、その隙間に小石を入れ、さらにその隙間に砂を入れ、最後に水を入れます。ここから何を学べるか?先に砂や水を入れると、後から大きな石が入らない。どうでもよいことで人生を満たさず、重要なもので人生を満たすべし。・・・本当にその通りだけれど、実践が難しい教えだと思います。自身の壺に大きな石を入れられるよう、改めて心掛けて過ごしていきたく思います!そして、理学友倶楽部の皆さんの益々のご発展をお祈りしています。

2023~2024年に Visiting Scholar(客員研究員)として滞在した University of Colorado Boulder。キャンパスからは雄大なロッキー山脈が望め、近隣ではプレーリードッグに度々出会える。
経歴
2013年3月
大阪大学理学部化学科 卒業(原田明研究室)
2015年3月
大阪大学大学院理学研究科高分子科学専攻 博士前期課程 修了(原田明研究室)
2015年4月
宇宙航空研究開発機構 入構 研究開発部門 研究開発員
2026年10月-現在
同部門 主任研究開発員
2022年9月
東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻 博士後期課程 修了
2022年10月-現在
東京大学大学院工学系研究科原子力専攻 客員研究員
2023年2月-2024年4月
Ann and H.J. Smead Aerospace Engineering Sciences, University of Colorado Boulder, Visiting Scholar
2026年10月9日 掲載








































