先輩を訪ねて
Persons
現在はどのようなことをされていますでしょうか
大阪市立科学館で学芸員をしています。学芸員とは博物館の専門職で、博物館資料の収集、調査研究など、博物館活動の基本を支える職種です。普段は、プラネタリウムの投影、番組制作、各種講座やイベントの実施、毎月発行する冊子の執筆・編集などを行っています。2024年8月に展示場をリニューアルオープンしましたが、オープン前日までこの準備に奔走していました。また、大阪大学理学研究科の各専攻に交代で展示資料を提供していただいている「博学連携コーナー」の展示も担当しています。
大阪市立科学館ホームページ
「博学連携コーナー」の展示資料は、大阪大学理学研究科の各専攻が提供している
プラネタリウム操作席の江越氏
現在の活動(研究も含め)はどのようなきっかけで始められたのでしょうか
もともと科学館やプラネタリウムが好きで、各地の科学館にはよく行っていました。ただ、自分がそこで働けるとは思っていませんでした。そんな時、当時働いていた地方にある科学館に、大学で同じ業界だった先輩が就職されました。その科学館に出入りしているうちに興味を持ち、学芸員の資格を取ったりしました。それでも、科学館の学芸員の募集は滅多にないため、それほど真剣には考えていませんでした。しかし科学館に出入りしていたおかげで、たまたま大阪の科学館に募集があるのを教えてもらい、運よく採用されて現在に至ります。
大阪大学理学研究科・理学部時代に、心がけていたこと・大切にしていたことは何ですか
とにかく講義や実験が大変で、とりたてて信念があった訳でもないのですが、真面目に授業には出ていました。講義の中で先生方はこぞって「人の真似ではない、オリジナルなことの大切さ」を強調されていました。そのため、あまり他人の評価にとらわれないようにする、ということは大学に入ってから意識するようになりました。あと、トップクラスの研究者だけでなく、二流の研究者もいい研究者である、ということを聞いてから、目立たなくても自分なりの価値を見つけるようにしようと思っています。
大阪大学理学研究科・理学部時代に印象的なエピソードがあればお教えください
4年生で運よく希望のX線天文学の研究室に配属になり、1年ほど経ったところで、「あすか」と呼ばれるX線天文衛星が打ち上げられることになりました。研究室の先輩や同級生と4人で、はるばる車で鹿児島県の内之浦まで打ち上げの様子を見に行きました。しかし、打ち上げが当初の予定から数日延期になり、しばらく現地で待っていたものの、さらに1週間延期され、結局帰って来てしまいました。内之浦には、その後も大学院生の時に衛星の運用のために訪問することがありましたが、残念ながら今に至るまで、ロケットの打ち上げを見る機会には恵まれていません。
1993年 鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所にて
後方に写るのは、X線天文衛星「あすか」
これからの大阪大学理学研究科・理学部について、提言等ありましたらお教えください
大阪大学の先生方は、非常に素晴らしい研究をなさっていると思います。ただ、特に最近はいろいろな事務仕事に忙殺されていて、外から見ていても大変そうです。社会的な情勢もあり、やむを得ない面はあると思いますが、もっと研究に専念できる環境があればと思います。
また、いろいろな業界の方が、今後、理系を担う人材が減ってしまうことへの危機感を口にされます。将来の人材育成にも引き続き力をいれていただければと思います。
今後やってみたいことはどのようなことでしょうか
自分自身が興味を持っていたこともあり、科学館では気象に関する展示や普及活動に取り組んできました。身近な現象なのに、意外に気象に関する展示は多くありません。気象台さんから測器をいただいて気象観測を紹介する展示を作ったりしてきましたが、さらに小型センサーや各種データ、AI技術を活用した展示ができないか構想しています。
理学研究科との「博学連携コーナー」もさらに充実させ、科学館にある大阪大学ゆかりの展示も活かしつつ、最新の研究を紹介することができればと思っています。
理学友倶楽部の部員にメッセージをいただけますでしょうか
特にここで働いていると、大阪大学とのつながりは特別で、これが縁となって、いろいろな事業につながることがあります。同じ大学の出身だと、それだけで共通の話題を持つことができ、話が弾みます。特に学生さんには、研究以外も含めて、大阪大学で過ごす日々を充実させてもらえればと思います。(博物館に無料で入館できる大阪大学のキャンパスメンバーズ制度も活用して、いろいろな博物館を巡ってみてください。)
大阪大学のキャンパスメンバーズ制度
最後にひとこと
大阪市立科学館は、かつて大阪大学理学部があった跡地である中之島に建てられています。大阪大学で活躍した歴史的な実験装置であるコッククロフト・ウォルトン型加速器や、スパークチェンバー(放電箱)、バンデグラフ加速管などを保存、展示しています。このような場所で働けるご縁に感謝しつつ、ぜひ多くの方に訪れていただき、大阪大学の源流に触れていただければと思います。
「大阪と科学コーナー」では、大阪大学で使われていたコッククロフト・ウォルトン型加速器やバンデグラフ加速管などが展示されている
大阪市立科学館の西側に設置されている
「大阪大学理学部跡地記念碑」