先輩を訪ねて

Persons



次代の産業の要となる
人工永久磁石の研究と後進の育成

2013年に大阪大学を退職し、東京大学柏キャンパスにある物性研究所に赴任しました。研究テーマは阪大時代と同じく、より優れた永久磁石を目指した磁性材料の電子論的理論研究が中心です。

ハイブリッドカーなどに使われ、昨今ニーズが高まり注目を集めている永久磁石ですが、自然由来のものはレアアースであり、輸入に頼らざるを得ないのが日本の現状。また、海外産のレアアースは、価格の高騰や環境汚染が問題視されています。私は永久磁石を人工的に作ることでこれらの問題を解決できないか、ということをコンピューターでシミュレーションして探っています。今後の発展に期待がかかる磁性材料の研究は、2012年度に文科省が発足した『元素戦略プロジェクト』でも採択されました。そこで阪大時代から研究を行っていた私に白羽の矢が立ち、後進の育成と研究の継続を依頼されることとなったのです。

兵庫県の宝塚から千葉県柏市に住まい移された赤井教授。
現在は毎日歩いて研究室まで通っていらっしゃるとのこと。

全国で行われている永久磁石研究の拠点、東京大学物性研究所。多くの研究所と連携し、後進の育成も行っています。

阪大理学部のお家芸、磁性研究
現在の礎を築いた数多くの研究者を輩出

磁性の研究は、実は阪大理学部とは非常に深い縁があります。現在の磁性材料の研究に大きな影響を与えた永宮健夫教授の『反強磁性体の磁気共鳴の理論』は阪大理学部での研究で成されました。理学部長を経て阪大総長も務められた故金森順次郎教授は、その永宮教授の下で磁性を学ばれました。私は、その金森研の出身なのです。

私が大阪大学に入学したのは1960年代。東大と阪大、どちらで理学を学ぼうかと迷い、阪大を選びました。独創的な研究が多く行われており、また実証主義的な理論が盛んな阪大の環境に魅力を感じたのです。当時の阪大理学部には、理論の構築だけを追求するのではなく、研究がいかに産業に寄与できるかを考える若い教授が多くいました。入学当時、何を専攻するか明確でなかった私が、たまたま出席した授業で出会い、感銘を受けたのがまだ30代ながらすでに教授となっていた金森教授でした。その出会いが私を磁性研究に導いたのです。

年代と研究の枠を越えた交流で
阪大イズムの復活を願う

私と同様の想いで磁性研究の門をくぐる研究者は、他にも多くいました。永宮研と金森研から輩出された研究者が全国に散らばり、現在の日本の磁性研究の礎を築いたといっても過言ではないでしょう。

磁性だけではありません。阪大の過去を振り返ると、先達たちが様々な試行錯誤を重ね、積み上げてきた実績が多くあります。そこには阪大イズムと言える独創性、産業へ結びつく考え方が溢れています。そこから学べることは、今なお多くあると感じます。

今回、この『理学友倶楽部』という場ができたことで、年代や研究テーマの枠を越え、多くの関係者が交流し「阪大らしさ」が復活することに期待を寄せています。ぜひ若い研究者の方には「自らが新たな伝統を生み出すのだ」という気概を持って研究に取り組んで欲しい。その精神こそが阪大理学部のあるべき姿だと私は思うのです。

そのためにも理学友倶楽部の末永い活動と発展を願っています。

1974年03月

大阪大学大学院修士課程修了

1977年03月

大阪大学大学院博士課程修了(理学博士)

職歴

1977年04月

日本学術振興会特別研究員

1978年04月

奈良県立医科大学医学部助手

1979年11月

奈良県立医科大学医学部講師

1985年04月

奈良県立医科大学医学部助教授

1994年03月

大阪大学教養部教授

1994年04月

大阪大学理学部教授

1996年04月

大阪大学大学院理学研究科教授

2012年03月

大阪大学退職、名誉教授

2012年04月

大阪大学グローニンゲン教育研究センター長

2013年04月

大阪大学基礎工学研究科特任教授

2013年05月

東京大学物性研究所特任教授

2015年04月01日 掲載