先輩を訪ねて

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どのようなことをされていましたか

証券会社に所属して担当業界の主要企業を分析し、それを基に構築した株式投資戦略を世界中の機関投資家に提案するセルサイド・アナリストをしていました。因みに、運用会社に所属して社内の運用戦略構築に貢献する専門職をバイサイド・アナリストといいます。私は、村田製作所やNIDEC、新光電気工業といった世界的に高い競争力を有する日本の電子部品業界を担当していましたが、そのおかげで多くの名経営者の奮闘を間近に見ることができました。

その活動はどのようなきっかけで始められたのでしょうか

全くの行き当たりばったりです。就職活動は数学科なのにマスコミを志望し全滅。梅田駅前で途方に暮れていたところ、当時、数学者の広中平祐先生をCMに起用していた日興證券(現SMBC日興証券)が目の前にあり、思わず門をたたきました。入社後はアナリスト部隊に配属されます。情報収集から分析・発表およびそのマーケティングまでの全てを自分の裁量で行えること、グローバル資本市場に自らの見解を直接問うことができること、またそのパフォーマンスは直ちに市場から公正に評価されることなど、私にとってセルサイド・アナリスト業は大変魅力的な仕事でした。

下井氏は、1999年~2001年、2003年~2005年、米Insutitutional Investor誌ALL-ASIA/JAPAN RESEARCH TEAM/Electronics/Components部門、および日経アナリストランキング電子部品部門の両方においてそれぞれ6度の首位を獲得されたとのこと
写真は、米Institutional Investor誌(2000年)の記事

大阪大学理学研究科・理学部時代に、心がけていたこと・大切にしていたことは何ですか

1年生最初の授業は、厳しくも温情ある池田信行先生(当時、理学部数学科教授)によるデデキント切断を使った有理数の稠密性証明でした。そこから躓いてしまった私は卒業まで常に落第寸前でしたので、頼れるものには何でも頼る、という感じだったでしょうか。幸い周りには大変優秀な友人がおりましたので、いつも私のアパートで泊りがけの家庭教師をしてもらっていました。頼るという経験は、社会人になってからも大変有効だったかもしれません。

大阪大学理学研究科・理学部時代に印象的なエピソードがあればお教えください

4年生の時、大阪大学交響楽団の欧州演奏旅行にコントラバス奏者として参加できたことです。数週間かけてオランダ、ドイツの各地で演奏会を開催して回りました。曲目はブラームスの交響曲第四番とドヴォルザークのチェロ協奏曲で、アムステルダム・コンセルトヘボウでの演奏会がメインイベントでした。オーケストラフルセットでの渡航費用を捻出するため、関西の企業・団体に楽団支援金の提供をお願いして回ったことも、厳しいながら貴重な経験になりました。

これからの大阪大学理学研究科・理学部について、提言等ありましたらお教えください

社会や産業界のニーズとやらをあまり意識することなく、自らが是非そうしたいと思う確固たる方針で研究や教育に邁進して頂きたいです。研究者の方々が何ら制約なく活き活きと研究に没頭しておられる姿は、きっと多くの学生さんを魅了することでしょう。アカデミアを志す学生さんの数も増えてくると思います。

今後やってみたいことはどのようなことでしょうか

証券会社を退職後、酒類をプロデュースする英国法人を創業し、数年前に球磨焼酎の英国向けオリジナルブランド「OTOGO」を立ち上げました。お陰様で「OTOGO」は、The Asian Spirits Masters 2024において金賞を受賞することができました。これを梃に欧州全域での焼酎マーケット拡大に寄与することができるよう取り組んでいきます。これまでもそうでしたが、全く縁のなかった未知の領域にどんどん挑戦していきたいと思っています。

英国で展開している球磨焼酎ブランド「OTOGO」
The Asian Spirits Masters 2024でGOLD金賞を受賞

理学友倶楽部の部員にメッセージをいただけますでしょうか

ローム株式会社の創業者 佐藤研一郎さんから頂いた言葉を紹介します。「どんなに小さな分野であっても与えられた領域においては、必ず世界の最先端に届く研究(仕事)をするように」とのことでした。

最後にひとこと

日本のアナリスト業界において阪大卒は少数派です。証券アナリストの仕事に興味や関心を持って頂ければ嬉しいです。公益社団法人日本証券アナリスト協会のホームページを覗いてみてください。

経歴

1992年

日興證券(現SMBC日興証券) 入社

1999年

日興ソロモン・スミス・バーニー証券(現シティグループ証券) 移籍

2005年

日興シティグループ証券(現シティグループ証券)Managing Director、常務執行役員調査本部長、Citi Global Research Executive Committee Member

2015年

シティグループ証券 退職

2018年

Peoplegood Ltd(英国法人)創業、Director

※1999年~2001年、2003年~2005年、米Insutitutional Investor誌ALL-ASIA/JAPAN RESEARCH TEAM/Electronics/Components部門、および日経アナリストランキング電子部品部門の両方においてそれぞれ6度の首位を獲得
※日本証券アナリスト協会検定会員

2025年10月16日 掲載