先輩を訪ねて

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大阪大学 先端強磁場科学研究センターの源流を作られた 伊達 宗行 名誉教授のもとで学生時代を過ごした 植村 氏。産業技術総合研究所での現在の研究、物理学で学んだ基礎を医学分野へ生かしていくまでの経緯、今後の展望や、理学部に対する思いを語っていただきました。

三次元の培養技術で再生医療・創薬を目指す

現在は、再生医療や創薬を目指した三次元の(培養)組織の構築を行っています。主に弾性軟骨(耳や鼻などの軟骨)を扱っていて、たとえば生まれつき小耳症の方や交通事故に遭われた方など、患者さんの細胞を外で培養して損傷したところに戻す、といったことを目標にしています。あと、1年半か2年くらいで臨床に応用できると思います。

医学・生物学への興味は大学院 物理学専攻時代から

ドクター1年生くらいから、生体膜などの研究に興味を持っていました。ただ、せっかくドクターに入ったので、やりきろうと思っていました。学生時代から自腹で生物物理系の学会に行ったり教科書を読んだりしていたけど、全然わかりませんでしたね。

産総研(当時、工業技術院)に入って1~2年でだんだん自由度が増してきて、留学する機会を得たんですね。スイスのETH(スイス連邦工科大学)ではbiochemistry(生化学)、トロント(カナダ)ではbiomaterial(生体材料)の研究をやって、そのあと産総研で再生医療をやる話になったとき、何も考えずに手をあげて、話にのりました。それで、骨の再生を始めました。

学生時代に実験を行っていた思い出の低温センターの入口で

大学院時代は血と汗と涙の結晶

とにかく先生が厳しいところだった。血と汗と涙を一升瓶に入れて持ってこいと言われていました。スイスにいたとき、タンパク質を精製するために毎日のように献血センターから血液を運んでいたので、伊達先生に「何リットルも血を運んでいますよ!」と話をしたら笑っていました。

世の中の役に立つものが作りたい

これからは、やっぱり再生医療や創薬関係で臨床に使えるものを、応用がきくものを作っていきたいなと。論文にはならなくても、世の中に出る医療品を作りたい、役に立つものを外に出したい。それが自分のモチベーションですね。あとは、学生を育てたいとも思っています。今も東京工大や東京農工大などで授業をもつことがありますが、楽しいと思っています。

理学部は基礎から学べるから応用がきく

(理学友倶楽部の読者や大阪大学理学部/理学研究科にメッセージをいただけますか?)
理学部は就職悪くないですよ、と言いたいですね。ちゃんと食っていけますよ。理学部はつぶしがきかないと言われるけど、むしろ理学部の方が、つぶしがきく素養が身につくと思います。理学部は基礎からやれるから、応用範囲が広いと思います。何でもやれる。理学部出身者の方々は、いろんなところで活躍されていますよね。あまり先のことを考えず、学んでいってもらいたいです。

理学研究科入口にて

経歴

1979年

京都大学理学部(物理化学系)卒業

1984年

大阪大学大学院 理学研究科物理学専攻 博士後期課程修了(理学博士)

1985年

大阪大学理学部職員

1986年

通商産業省工業技術院(のちの産総研)入所

1989年

科学技術庁長期在外研究員(スイス・ETH)

1994年

産業技術融合領域研究所(のちの産総研) 主任研究員

2001年

産業技術総合研究所(産総研)ティッシュエンジニアリング研究センター 主任研究員、
東京医科歯科大学 客員教授(2001~2013年)

現在

産業技術総合研究所創薬基盤研究部門 上級主任研究員、
横浜市立大学先端医科学研究センター 客員教授

2016年01月08日 掲載