先輩を訪ねて

Persons



人生を共に歩んだ、研究とピアノ
新たなステージでその魅力を再発見

『ワンコイン市民コンサートシリーズ』を2012年より毎月、豊中キャンパスの中にある大阪大学会館のホールで開催しています。週末の午後に500円でプロの演奏が気軽に楽しめると、人気を集めています。本格クラシックが楽しめる設備へとリノベーションされたホールはもちろん、1920年製のヴィンテージピアノも活用できないか、と私が企画して実行委員会を立ち上げ、阪大に協力してもらって開催しています。ホームページやチラシも私が制作しています。私自身、コンサートで演奏を行うほか、個人的に作曲や演奏活動も再開しました。5歳から始め、人生と共にあったピアノを、また違った形で楽しめています。音楽は、思考をシャッフルしてくれる。それは教授時代に実感していたこと。集中し、忙殺されると人は視野が狭くなる。そんなとき、ピアノ演奏で頭と体をフルに使うと、思考がシャッフルされ、再整理された新たな表層が見えてくるのです。予想しなかったことですが、この活動を始めて、現役時代には見えなかった、感じなかった阪大の姿も新たに発見しています。

大阪大学会館は、平成16年(2004年)に、国の登録有形文化財建造物に指定されました。

研究者として、教育者として
阪大理学部の発展のため改革を推進

米国アルバート・アインシュタイン医科大学の解剖学細胞生物学教室でポスドクを務めていた時に、公募に申し込んだのが阪大に勤めるきっかけとなりました。そこからは研究者に加え、教師としての顔も持つことに。これは苦労しました。研究者としてずっと勉強をしてきましたが、教育者としては経験も知識もゼロでしたから。

私が特に注力したのは「グローバルな人材の育成」。阪大生を海外の大学に派遣し、また海外の学生を阪大に呼び寄せるための、理学部の体制や仕組みを作っていきました。「学生を立派に育ててグローバル社会に輩出することこそ、大学の果たすべき重要な意義の一つだ」と私は考えています。特に理学部は、基礎科学の高い教育ができる学部。ここでこそ世界に通用する人材を育てるべきだと考え、改革を行いました。その一環として、英語教室を開催し、事務職員のグローバル化も推進しました。いまも阪大に来ると、事務の方々とお話しをして様子を聞いていますよ。

1920年にウィーンで製作されたベーゼンドルファーグランドピアノに指を走らせると、クラシックの名器が奏でる美しい音色がホールを満たします。

■「ワンコイン市民コンサート」HP

可能性溢れる大学を可視化すれば
化学反応で新たな未来が生まれるはず

大学は、未来の可能性が無限に溢れる場所。いま大学で学ぶ方にはそのことを意識し、研究を深く掘り下げ、可能性を開花させて欲しい。運営に関わる方には、その環境の整備にぜひ尽力して欲しいと思います。

コンサートのお客さまから「卒業後、初めて阪大に入りました」「近くに住んでいるが、こんな素敵なところだったのですね」いう声をいただき、まだまだ大学が世に開かれていない状況だと、私もやっと気がつきました。アメリカの大学では、仲間たちと専門の垣根を越えて議論を交わす中で、新たなアイデアが生まれる瞬間に何度も立ち会いました。学外の方に来校いただけるコンサートは、その一つの機会。今後は、ぜひ研究内容なども広く外に向けて発信するような「見える大学化」を進めてはいかがでしょう。そして、研究に従事する方も、ぜひコンサートに足を運んでください。頭の中がシャッフルされ、気持ちに余裕ができますよ。一般の方々と出会うことで、様々な化学反応も起こるはずです。この理学友倶楽部もそんな化学反応の一つの触媒となれば、なおよいですね。

未来の可能性に溢れる大学を、もっとたくさんの人に開かれた場所にしたい、
という想いで退職後も精力的に活動を続けています。

職歴

1960年代

東京都立新宿高校 卒業

1970年代

国際基督教大学(ICU)教養学部自然科学科 卒業
大阪大学大学院理学研究科生理学専攻入学(神谷研究室)
博士課程修了(殿村研究室)
理学博士

1980年代

日本学術振興会 特別研究生
米国アルバート・アインシュタイン医科大学・解剖学細胞生物学教室 ポスドク
大阪大学教養部→大阪大学大学院理学研究科 教授

現在

大阪大学 名誉教授

2015年05月26日 掲載