理学友倶楽部だより

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2021.11.08

新任の教員よりごあいさつ:物理学専攻に着任した新見 康洋 教授

新見 康洋

Yasuhiro Niimi

大阪大学大学院理学研究科
物理学専攻
2021年10月 着任

現在の研究の概要について教えてください

端的に言えば、物質を究極的に薄くする研究です。この世の中にあるものは、縦、横、高さの方向にそれぞれ有限の長さを持つ3次元ですが、その中で高さだけを原子1層まで薄くすると2次元になります。実はこの2次元物質、2005年になって初めて発見されたんです。私の研究では、色々な特性を示す物質を2次元にすることで発現する新しい物理現象の探索、さらに2次元物質同士を重ね合わせることで、天然には存在しないような人工結晶を作る研究も行っています。

また、磁気の源にもなるスピンの流れ「スピン流」に関する研究も行っています。実はスピン流というのは、非常に短い長さで減衰してしまいます。逆に言えば、ミクロな物質に対して威力を発揮できる優れたプローブになり得ます。最終的には様々な微小人工結晶に対して、スピン流を用いて何が明らかにできるか、そのような研究に繋げたいと思っています。

この道を選んだ理由を教えてください

きっかけは学部3年時に、のちの指導教員となる福山寛先生から、特別に「超流動ヘリウム」の実験をさせて頂き、実際に量子現象を自分の目で見たことです。通常の物質は絶対ゼロ度(-273℃)にすると必ず固体になりますが、ヘリウムだけは液体のままなんです。さらに液体ヘリウムを-271℃まで冷却すると、粘性ゼロの超流動という量子的な液体になります。しかもその超流動ヘリウムを小さな試験管に入れると、試験管の底から液滴が垂れます。実は、超流動ヘリウムが試験管の壁を重力に逆らってよじ登り、それが垂れているというんです!しかも試験管の表面を荒らした方が垂れる速度が増す。どうしてそんなことが起きるのか不思議でたまらなかったですし、その時に実際に自分の目で見ることのできる量子的な世界に興味を持ちました。

現在の研究でやりがいを感じるのはどんなときですか?
逆に難しさを感じるのはどんなときですか?

物質を扱う物理学の面白いところは、実際に実験してみないと何が起きるか分からない点です。「こうなるといいな」と予想しながら実験するのですが、その予想は大概裏切られます(笑)。そのときに勇気を持って、当初考えていた道(実験)から小道にそれることができるかがとても重要だと思っています。もちろん、多くの場合は行き止まりになっているのですが、たまに小道にそれるとオアシス(発見)があるんです。自分で発見したときにはもちろん、やりがいを感じますし、学生たちが隠れてコッソリ実験をやって、あとで誇らしそうにその発見を教えてくれるときの顔を見ると、それだけで嬉しくなります(発見した本人より興奮してるかも)。

大阪大学理学研究科に着任前はどちらで研究していましたか?
着任までの経緯なども教えてください

博士課程のときから2次元物質の研究を行いたいという願望はあったのですが、まだ生まれたてで現在のような研究分野に成長することは予測できませんでした。そこで2007年に博士号を取得した後は、日本学術振興会PDとして、仏国・グルノーブルにあるネール研究所と東北大学で半導体の研究をしました。その後、少し分野を変えて、東京大学物性研究所の大谷義近先生の研究室で助教となり、スピントロニクスと呼ばれる研究分野に参入しました。2015年に大阪大学理学研究科の小林研介先生の研究室で准教授になったことをきっかけに、元々やってみたかった2次元物質の研究、さらにはスピントロニクスと組み合わせる研究に着手し、今に至ります。

大阪大学理学研究科についての印象を教えてください

物理学の分野は、初代総長の長岡半太郎先生に始まり、数々の著名な先生方がいらっしゃいます。どの先生も自由で非常に独自性の高い研究をされているという印象を持っています。特に2020年まで新世代研究所の理事長を務められていた伊達宗行先生(大阪大学名誉教授)には、「大学院物性物理シリーズ」(講談社)で間接的にお世話になったばかりでなく、新世代研究所から文部科学大臣表彰若手科学者賞の推薦を頂き、受賞後には直接激励のお言葉をかけて頂いたこともあって、とてもご縁を感じています。

大阪大学理学研究科で実現したいこと、目標などあれば教えてください

上述した人工結晶の作製、さらにそのスピンに関する特性を、スピン流で解明するような研究へと発展させたいと思っています。最終的には、スピン流の概念を物性物理だけでなく、素粒子・原子核物理、惑星、宇宙へと拡張し、普遍的な概念として確立できればと考えています。またこのような研究を通して、大阪大学理学研究科・理学部から多数の優秀な人材を輩出し続けていきたいと考えています。

理学友倶楽部の部員にメッセージをお願いします

私のモットーは、年齢や学年に関係なく自由で活発な議論を行いながら、楽しく研究を進めることです。これは仏国でポスドクをした経験が大きいかもしれません。学部4年生にもなれば、すでに一般的な物理学を学んだ研究者の卵であり、経験の差こそあれ、若い力がこれまで誰も予測していなかった物理を発見することすらあり得ます。若い学生さんの自由な発想と意欲的な挑戦をいつでもお待ちしています!

最後にひとこと

生まれも育ちも広島なので、野球やサッカーはもちろん地元の球団を応援しています。またこのような生い立ちなので、お金をかけることなく、創意工夫しながら、強いものに立ち向かい、勝つことに喜びを感じます!

大阪大学 大学院理学研究科 物理学専攻 ナノスケール物性研究室
→ホームページ

学歴

1998年3月

広島城北高等学校 卒業

2002年3月

東京大学理学部物理学科 卒業

2004年3月

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 修士課程 修了

2007年3月

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 博士課程 修了

2007年3月

東京大学 博士(理学) 取得

職歴

2005年4月

日本学術振興会特別研究員DC2

2007年4月

日本学術振興会特別研究員PD
(東北大学大学院理学研究科物理学専攻、及びInstitut Neel, Franceに所属)

2009年12月

東京大学物性研究所助教

2015年4月

大阪大学大学院理学研究科物理学専攻准教授

2021年10月

大阪大学大学院理学研究科物理学専攻教授