理学友倶楽部だより
News
2025.06.05
新任の教員よりごあいさつ:宇宙地球科学専攻に着任した土屋 旬 教授

土屋 旬
Tsuchiya Jun
大阪大学大学院理学研究科
宇宙地球科学専攻
2025年4月 着任
現在の研究の概要について教えてください
第一原理電子状態計算法という原子スケールの物質シミュレーション手法を用いて、高圧下での鉱物の物理的性質を調べることで、地球や惑星内部の構造やダイナミクスの理解を目指しています。得られた知見をもとに実験系の研究者と共同研究により未知の物質を発見したり、地球や惑星規模の現象の考察に展開したりしています。特に、水や水素の存在と振る舞いに着目し、地球内部における水素の循環や、地球に水をもたらした天体が何であるかといった問いに対し、物質科学の観点からアプローチする研究を進めています。
この道を選んだ理由を教えてください
星空が美しい徳島の田舎で育ち、小学生のころから天体観測に興味を持つようになりました。とはいえ、実際には天体写真のような華やかな光景が見えるわけではなく、どこを見ても広がる圧倒的な暗闇の中で、かえって「地球という存在のほうが不思議だ」と感じたことをよく覚えています。そうした体験から、惑星や地球そのものへの関心が深まり、大学では物理を基礎として地球惑星科学を研究できる大阪大学理学部物理系に進学しました。最初から明確な志があったわけではなく、研究者になれるとも思っていませんでしたが、「もう少しだけ研究を続けてみよう」という気持ちを積み重ねていくうちに、気がつけばこの道に進んでいました。
現在の研究でやりがいを感じるのはどんなときですか?
逆に難しさを感じるのはどんなときですか?
理論的に予測した結果が実験によって実証されたときは、やはり純粋にうれしく、研究を続けていてよかったと感じます。また、鉱物の結晶構造は非常に多様で複雑なものも多く、それらを眺めているだけでも楽しいと感じます。圧力や温度を加えたときに生じる微小な原子位置の変化の背後にある物理的なメカニズムを理解できたときには、特に大きなやりがいを感じます。
一方で、研究成果を地球や惑星の内部構造、あるいは進化過程といったより大きなスケールの現象に結びつけて考察する際には、多くの異なるスケールの要素が複雑に関係してくるため、過大な解釈にならないよう常に注意を払う必要があると感じています。
大阪大学理学研究科に着任前はどちらで研究していましたか?
着任までの経緯なども教えてください
学位取得後は、アメリカ・ミネソタ大学で博士研究員として研究に従事しました。その後、育児のため一時的に研究の現場を離れ、育児休業中は無職の期間もありましたが、学振特別研究員(RPD)として研究に復帰する機会を得て、愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センターにて研究を続けることができました。そこでは、世界最大のマルチアンビル型高圧発生装置やダイヤモンドアンビルセルといった、地球や惑星内部の極限環境を再現できる実験装置が整っており、実験系の研究者との共同研究を通じて、非常に貴重な経験を積むことができました。
大阪大学理学研究科についての印象を教えてください
着任して間もないのですが、皆さんが自由な発想で、のびのびと楽しみながら研究に取り組んでいるという印象を強く受けました。私自身もその良い影響を受けて、ユニークで楽しい研究を展開していきたいと思っています。
大阪大学理学研究科で実現したいこと、目標などあれば教えてください
学生とともに、研究の面白さややりがいを分かち合っていきたいと考えています。私自身も大阪大学の出身であり、共通するバックグラウンドを持つからこそ、学生とより深く分かり合える部分があるのではないかと思っています。また、ロールモデルといえるほど立派なものではありませんが、私自身が試行錯誤を重ねながらも研究者として歩んでくることができたので、物理学科に進む女子学生がもっと増えてくれると嬉しいです。
理学友倶楽部の部員にメッセージをお願いします
22年ぶりに阪大に戻ってきました。現在はゼロから新しい研究室を立ち上げているところで、毎日が新鮮で、どんなことも楽しく感じています。物理と地球惑星科学をつなぐ学際的な研究を進めるには本当に恵まれた環境だと実感しており、この場で皆さんと交流を深めていけることを楽しみにしています。どうぞ気軽に声をかけてください。
最後にひとこと
大阪で中学生の娘と2人暮らしを始めました。引っ越しはなかなか大変でしたが、これからは親子でシンプルに、そして面白おかしく暮らしていけたらと思っています。
大阪大学 大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻 理論鉱物物理学グループ(土屋研究室)
→ホームページ
学歴
2003年3月
大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻 博士課程修了
職歴
2001年
日本学術振興会特別研究員(DC2)
2003年
日本学術振興会特別研究員(PD)
2005年
ミネソタ大学博士研究員
2005年
育児休業
2007年
日本学術振興会特別研究員(RPD)
2008年
愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター上級研究員、准教授、教授
2025年
大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻 教授