理学友倶楽部だより

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2025.06.24

新任の教員よりごあいさつ:宇宙地球科学専攻に着任した松尾 太郎 教授

松尾 太郎

Matsuo Taro

大阪大学大学院理学研究科
宇宙地球科学専攻
2025年4月 着任

現在の研究の概要について教えてください

私は、「宇宙」という視点から地球を含む惑星と生命の共進化を理解し、その知見を将来の宇宙における生命探査へとつなげる研究を行っています。地球に生命が誕生して以来、地球表層や内部には生命活動の痕跡が刻まれており、そうした変化は生命の進化とも密接に関係しています。私は、地球と生命の相互作用(キャッチボール)を理解することで、進化的な側面から生命という対象に迫りたいと考えています。この共進化の理解が、いつか宇宙における生命探査に貢献できると信じています。

この道を選んだ理由を教えてください

名古屋大学の学生だった2000年代、学部生向け講義で、当時は名古屋大学に在籍されていた芝井広教授(2008年4月~2020年3月 大阪大学理学研究科宇宙地球科学専攻教授)から「宇宙における生命の探査」というテーマを紹介されたのが、太陽系外惑星の研究に興味を持ったきっかけです。当時は日本でこの分野に取り組んでいる研究者はごくわずかで、論文を一人で読みながら少しずつ勉強を進めていました。未開拓の分野だからこそ、自分のアイデアを試しながら研究を進めていく醍醐味があり、その経験がこの道を進む大きな後押しとなりました。

現在の研究でやりがいを感じるのはどんなときですか?
逆に難しさを感じるのはどんなときですか?

さまざまな分野の先生と意見を交わしながら、40億年という地球生命史の壮大な時間スケールの中で、生命の進化を学際的に捉えられた瞬間に、大きなやりがいを感じます。現在は進化生物学の先生と協力して、新たな生命進化のストーリーを構築しているところで、その成果を早く世の中に発信したいという思いで取り組んでいます。困難さを感じることは今はあまりありませんが、融合的な研究を始めたばかりの頃は、生物学の知識がほとんどなかったため、生物系の先生との会話がなかなかかみ合わず、もどかしい思いをしたことをよく覚えています。しかし、分野の壁が少しずつ低くなっていく中で、困難よりも楽しさの方が上回るようになりました。

大阪大学理学研究科に着任前はどちらで研究していましたか?
着任までの経緯なども教えてください

着任前は名古屋大学大学院理学研究科で研究を行っていました。2010年代後半、欧米ではAstrobiology(宇宙生物学)の研究部門が次々と立ち上がっており、2018年に米国での研究生活を通してその勢いを肌で感じました。2020年の帰国を機に、宇宙生命探査の対象である"生命"に対する理解を本格的に進めようと考え、生物学や惑星科学の先生方と日々交流を重ねるようになりました。その中で誕生した研究が、25億年前の地球表層と光合成の共進化を記述した「緑の海仮説」です。この研究を通じて、宇宙・地球・生命をつなぐ研究を本格的に展開したいと考えるようになりました。大阪大学の宇宙地球科学専攻は、まさに宇宙の始まりから地球表層までの進化を一つの軸で捉えるユニークな環境であり、私の目指す研究に最適な場所だと感じました。

大阪大学理学研究科についての印象を教えてください

第一印象として、気さくで親しみやすい先生方が多く、非常に話しやすい雰囲気だと感じました。着任してからまだ2ヶ月少々ですが、すでに生物科学専攻や化学専攻の先生方と研究の話をする機会をいただいており、これから専攻を越えたさらなる研究交流が広がっていくことを楽しみにしています。

大阪大学理学研究科で実現したいこと、目標などあれば教えてください

宇宙生物学はまだまだ発展の余地が大きい分野であり、そもそも「学問」として確立していないと考える研究者も少なくありません。一方で、学問としては未成熟でありながら、日本では若い世代が参入する基盤が十分に整っていない印象を受けます。大阪大学の宇宙地球科学専攻は、宇宙から地球、そして生命に至るまでを一つの進化の流れとして捉える非常にユニークな環境であり、今後の日本の宇宙生物学を牽引する拠点になり得ると考えています。一つの専攻だけでは限界がありますので、理学研究科内の他専攻の先生方とも積極的に連携しながら、宇宙生物学の発展に貢献していきたいと考えています。

理学友倶楽部の部員にメッセージをお願いします

私はこれまで、宇宙を舞台に研究を重ねてきました。宇宙生物学を入口に、地球と生命の共進化というテーマに出会い、自分の世界が大きく広がりました。それは、天文学、地球科学、生物学、化学など、分野を超えた多くの先生方との出会いがあったからこそだと感じています。今後も自分のバックグラウンドを大切にしながら、新たな出会いや研究を通じて、世界をさらに広げていきたいと思っています。

最後にひとこと

「生命とは何か?」という問いに答えるためには、さまざまなアプローチや視点が必要です。私は、宇宙や地球という空間的にも時間的にも最大スケールの視点から、生命という存在を捉えたいと考えています。まずは「地球と生命の共進化といえば大阪大学」と言っていただけるよう、研究に一層磨きをかけてまいります。皆さまとともに、生命の本質について議論できることを心より楽しみにしています。

大阪大学 大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻 生命惑星進化学グループ
→ホームページ

学歴

2008年

名古屋大学大学院理学研究科素粒子宇宙物理学専攻 修了(博士(理学))

職歴

2008年

NASAジェット推進研究所
※太陽系外における生命探査のための技術開発に従事

2010年

国立天文台 光赤外研究部 JSPS特別研究員

2012年

京都大学大学院理学研究科 特定准教授

2015年

大阪大学大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻 助教
※自身初となる新しい分光器手法を提案

2018年

NASAエイムズ研究所
※分光器のアイデアを基に、NASAエイムズ研究所での宇宙生命探査プロジェクト、東京大学の編隊飛行宇宙干渉計プログラムの立ち上げ

2019年

名古屋大学大学院理学研究科 准教授
※地球と生命の共進化をテーマに「緑の海仮説」を提唱

2025年

名古屋大学大学院理学研究科 特任教授

2025年

大阪大学大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻 教授