理学友倶楽部だより
News
2025.07.10
新任の教員よりごあいさつ:高分子科学専攻に着任した松宮 由実 教授

松宮 由実
Matsumiya Yumi
大阪大学大学院理学研究科
高分子科学専攻
2025年4月 着任
現在の研究の概要について教えてください
レオロジーは、物質の変形や流動のふるまいを扱う学問で、さまざまな時間・空間スケールの現象を対象としています。私は特に、高分子のようなソフトマテリアルにおける分子運動とマクロな物性との関係に関心を持ち、主に実験の立場から研究しています。美しい理論モデルが示す世界と、現実の複雑さとのズレに着目し、その背後に潜む物理を探ることに面白さを感じています。
この道を選んだ理由を教えてください
大阪大学理学部にあった高分子学科で学び、卒論ではイオン伝導を扱いましたが、レオロジーに強い興味を持ち、京都大学化学研究所に進学しました。大阪大学出身の渡辺宏先生の指導のもと、高分子レオロジーの研究に取り組む中で、複雑なふるまいを分子の運動として理解できることの面白さ、そして管モデルの美しさに強く惹かれ、この道に進むことを決めました。
現在の研究でやりがいを感じるのはどんなときですか?
逆に難しさを感じるのはどんなときですか?
レオロジーは複雑な現象が多く、それを分子の運動として理解できたとき、大きな喜びがあります。理論の美しさに感動する一方で、それが「先入観」となり、現象をありのままに見る目を曇らせることもあります。美しい仮説を描きつつ、目の前のデータに誠実でありたい。そのせめぎあいの中に、研究のやりがいと難しさの両方があると感じています。
大阪大学理学研究科に着任前はどちらで研究していましたか?
着任までの経緯なども教えてください
学部時代を過ごした大阪大学に、今回教員として戻ることになりました。これまで京都大学化学研究所(京大化研)でレオロジーの研究に取り組んできましたが、物理や化学、生物など多様な分野が交差する理学部という場で、改めて基礎に立ち返って考える時間を大切にしたいと考えています。着任にあたっては、京大化研時代の同僚でもあった井上正志先生のご厚意もあり、環境が変わっても継続して研究を深めていけることを嬉しく思っています。
大阪大学理学研究科についての印象を教えてください
理学研究科には、自然科学の多様な分野が集まっており、それぞれの専門性が尊重されつつ、自由で穏やかな雰囲気の中に共存している印象です。これまで在籍していた京大化研では、化学を軸とした連携が中心でしたが、理学研究科ではより幅広い視野での交流が可能であることに魅力を感じています。
大阪大学理学研究科で実現したいこと、目標などあれば教えてください
AIが広く社会に浸透する現代だからこそ、「なぜそうなるのか」という問いに向き合う基礎科学の重要性が増していると感じます。大量のデータや予測に頼るだけでなく、自然の背後にある構造や原理を理解する力を育みたい。学生とともに、現象の不思議を見つめ直し、基礎の面白さを共有しながら、物理化学・物質科学の地平を少しずつ広げていきたいです。
理学友倶楽部の部員にメッセージをお願いします
日々の研究や学びの中で、「これは何だろう?」という素朴な疑問を大切にしてほしいと思います。一人ひとりの視点の違いが、新たな発見の種になります。AIが発達した時代だからこそ、「何がわかっていないのか」に目を向ける力が重要です。失敗や偶然を恐れず、わからなさを一緒に楽しんでいきましょう。
最後にひとこと
「なんでだろう?」と思ったことは、つい深掘りしてしまう性格です。身の回りの現象の中に見られるレオロジー的なふるまいを、単なる現象論にとどめず、分子の運動と関連づけて理解できたときに得られる手応えが、私にとって何よりの醍醐味です。
複雑な現象をシンプルなモデルで記述することの美しさに魅了されつつも、現実はそう単純ではなく、そうしたズレを通して、物理の奥行きに触れることができるのが、この研究の魅力です。なるべく先入観にとらわれず、現象をありのままに見つめようと努めています。
教育においては、「自分の言葉で語れるようになること」を大切にしています。知識の受け売りではなく、自らの疑問や視点を持ち、それを他者と共有できるような思考のプロセスを、一緒に育んでいけたらと思います。
大阪大学 大学院理学研究科 高分子科学専攻 高分子物理化学研究室
→ホームページ
学歴
1997年3月
大阪大学理学部高分子学科 卒業
1999年3月
京都大学大学院工学研究科分子工学専攻修士課程 修了
2002年3月
京都大学大学院工学研究科分子工学専攻博士後期課程 修了(博士(工学))
職歴
2003年4月
University of California, Berkeley 博士研究員
2003年12月
京都大学化学研究所 助手
2007年4月
京都大学化学研究所 助教
2016年4月
京都大学化学研究所 准教授
2025年4月
大阪大学大学院理学研究科 高分子科学専攻 教授