理学友倶楽部だより

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2019.05.07

新任の教員よりごあいさつ:宇宙地球科学専攻に着任した波多野恭弘教授

波多野 恭弘

Takahiro Hatano

大阪大学大学院理学研究科
宇宙地球科学専攻
2019年4月 着任

現在の研究の概要について教えてください

地震や破壊・摩擦現象を非平衡統計力学の観点から研究しています。いわゆる地震学ではケーススタディが中心で、ある特定の地震や断層を微に入り細を穿つように調べますが、それらの性質に必ずしも再現性があるかどうか分かりません。ですから地震学の成果を横目に見つつも、再現性が高いと思われる性質のみを相手にするようにしています。そうすると必然的に統計法則や微視的過程(岩石や粉体の摩擦・破壊)が主要なテーマになりますが、地震のダイナミクスに関しても「再現性」をキーワードに新たな切り口を探しています。

この道を選んだ理由を教えてください

ホーキング氏の”A Brief History of Time”を高校生の時に読み、数学と思索によって物質の微細構造から宇宙の果てまで分かってしまうことに大変驚いたことが原体験です。あとは大学院で「自分でも何かできるかも」と少し手応えを感じられたことも実際問題として大きいです。

現在の研究でやりがいを感じるのはどんなときですか?
逆に難しさを感じるのはどんなときですか?

理論系では多くがそうだと思うのですが、苦しんでいた問題が「分かった!」という興奮と「今これを知っているのは人類史上でワシだけ」と人類史にまで(意味もなく)想像を馳せる時の多幸感に中毒する感じです。ただそのためには長く苦しい停滞時期が不可欠で、それには「分からん」という苦しさに加えて「成果が出ない教授」という社会的圧力も加わります。論文やプレスリリースの本数で研究者の業績を計る風潮が加速しても、研究停滞の苦しみを歓迎できる余裕は保ちたいと思います。

大阪大学理学研究科に着任前はどちらで研究していましたか?
着任までの経緯なども教えてください

大学院で非平衡統計力学、ポスドクで計算材料科学をやった後、東大地震研で基礎物理分野の公募があったので行きました。地球科学のことは全く分からなかったのですが、行ってみたら理論物理とは思想が全く違っていて面食らいました。異分野との摩擦でだいぶ鍛えられましたが、それでも長くいると摩擦をうまく避けるようになり居心地が段々よくなってきて、成長が止まってしまいます。そんな時に阪大からお話を頂きました。

大阪大学理学研究科についての印象を教えてください

着任してまだ1ヶ月ですので何も分かりませんが、豊中キャンパスは全学教育があるので雰囲気が若々しく、硬直した学問の権威主義とは無縁のように見えます。新入生を毎年キャンパスに迎えることはそれ自体が大学の再生であり、その場に身を置けることは大変な喜びです。(これまでの職場はいずれも附置研究所でしたので)

大阪大学理学研究科で実現したいこと、目標などあれば教えてください

宇宙地球科学専攻の特色として、地学科が理学部になく、大学院生が物理学科から進学してくるということがあります。多くの大学では(例えば東大でも)地学系の学生が基礎的な物理学を良く理解しているとは言えません。しかし阪大では基礎的な物理をよく分かっている学生が宇宙地球科学専攻に進学して地学の研究をします。これは大きなアドバンテージです。この特色をうまく生かして、新しい地球科学を世界へ向けて発信できる研究グループを作りたいと考えています。

理学友倶楽部の部員にメッセージをお願いします

運営費交付金の毎年減額は日本の研究を支えていた国立大学を危機的状況に追いやっていますが、そのうえ傾斜配分まで始まりました。「選択と集中」は学問の健全な発展につながらないとノーベル賞受賞者の方々が何度も言っているのに、政策は変わらないどころかますます強化されているのだから呆れるしかありません。大学人だけでなく、科学を愛する市民を増やしその理解を求め、広く団結するしか道はないのでしょう。政策を注視し、辛抱強く声をあげていきましょう。

最後にひとこと

「地震を研究している」というと、地震予知のことをすぐに聞かれます。現在の地震学では予知に関してはほとんど何も言えないのですが、だからと言って「地震予知は不可能である」と言えるほど我々は地震を理解していません。目的達成(結論)を急ぐあまり邪な近道に堕ちるのは古典的な悪の一形態ですが、今の日本では社会経済まで含めて様々な分野でそのような悪がはびこっているように見えます。目的に近づいていく過程をもっと大事にする教育を心がけたいと思っています。

大阪大学大学院理学研究科 宇宙地球科学専攻 理論物質学研究室
→ホームページ

職歴

2001年3月

東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 博士課程修了

2001〜2002年

日本学術振興会特別研究員(PD)

2002〜2004年

日本原子力研究所 博士研究員

2004〜2005年

東北大学金属材料研究所 助教

2005〜2019年

東京大学地震研究所 助教、准教授