理学友倶楽部だより
News
2018.07.23
新任の教員よりごあいさつ:物理学専攻に着任した川畑貴裕教授
川畑 貴裕
Takahiro Kawabata
大阪大学大学院理学研究科
物理学専攻
2018年5月 着任
現在の研究の概要について教えてください
原子核構造の実験的研究を行っています。通常の原子核の内部では陽子と中性子が比較的自由に運動していると考えられていますが、時として、複数の陽子と中性子が強く相関してクラスター構造を持つことが知られています。この「クラスター相関」の機構を調べることで原子核の構造を明らかにすることを目指しています。
また、現在の宇宙に存在する全ての元素は、138億年におよぶ宇宙進化の過程において原子核反応によって生成されたと考えられています。この原子核反応にもクラスター相関は重要な役割を果たしており、「クラスター相関」をキーワードに宇宙における元素合成過程の研究も行っています。
この道を選んだ理由を教えてください
両親が中学校の理科教員であった影響もあり、理科が大好きな子どもでした。高校生の半ばごろまでは、物理よりも化学の分野に魅力を感じていたように記憶していますが、物理の時間に気体の分子運動論を学んだときに、極めて簡単な模型によって理想気体の状態方程式を導出できるという物理の美しさに感動して、それから物理を志すようになりました。また、人に勉強を教えることが大好きで、いずれは理科の教員になりたいと思っていました。そんな自分にとって、物理の研究と教育の仕事を両立できる大学教員はとても魅力的な職業でした。
現在の研究でやりがいを感じるのはどんなときですか?
逆に難しさを感じるのはどんなときですか?
加速器を用いて原子核同士を衝突させると、様々な反応が起こります。研究対象として狙っている以外の反応はバックグラウンドということになりますが、いかに、膨大なバックグラウンドを排除して狙った反応を取り出せるかは実験研究者の「腕」にかかっています。そのために知恵を絞り、装置の開発を行って測定に臨みますけれど、期待通りに狙った反応を見つけ出したときには、それまでの苦労が報われたとやりがいを感じます。しかし、1度の成功のためには多くの失敗を重ねる必要があり、失敗の原因を探りそれを克服していくことには、いつも苦労しています。
大阪大学理学研究科に着任前はどちらで研究していましたか?
着任までの経緯なども教えてください
京都大学で博士を取得したのちは、理化学研究所でのポスドク、東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センターの助教、京都大学大学院理学研究科の准教授として働いてきましたが、20数年間の研究の多くは、大阪大学核物理研究センターのリングサイクロトロン施設を利用して行ってきました。部局は異なるものの、大阪大学へは「勝手知ったる他人の家」とばかりに頻繁に出入りをしてきましたので、理学研究科に着任した現在もあまり大きく環境が変わった気がしていません。
大阪大学理学研究科についての印象を教えてください
大阪大学理学研究科・理学部には世界トップレベルの研究を進めている教員が大勢いらっしゃる一方で、学生の教育にもしっかりと力を注いでいると感じています。
大阪大学理学研究科で実現したいこと、目標などあれば教えてください
自分の大学教員としての持ち味は、若い学生さんをどんどん巻き込んで教育と研究を進めていくことだと思っています。大阪大学理学研究科・理学部には優秀な学生さんがたくさん在籍しています。彼らとともにこれまでの研究を発展させていきたいと考えています。
理学友倶楽部の部員にメッセージをお願いします
原子核物理学の分野にとって、大阪大学理学研究科・理学部は菊池正士・湯川秀樹以来の伝統を持つ特別な大学であります。このたび、私もその教員の末席に連なったことを光栄に思うとともに、重い責任を感じています。研究・教育に全力を尽くしてまいりますので、よろしくお願いいたします。
最後にひとこと
研究にも趣味にも何事にも「笑顔で粘り強く取り組む」ことをモットーにしています。
大阪大学大学院理学研究科 物理学専攻 原子核実験研究室
→ホームページ
学歴
1996年
京都大学理学部物理学科 卒業
2001年
京都大学大学院理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 研究指導認定退学
2002年
博士(理学)
職歴
2001年
大阪大学核物理研究センター 教務補佐員
2001年
京都女子大学 非常勤講師
2001年
大阪工業大学 工学部 非常勤講師
2002年
理化学研究所 理研BNL研究センター 基礎科学特別研究員
2002年
東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター 助手
(2007年より助教)
2009年
京都大学大学院理学研究科 准教授
2018年
大阪大学大学院理学研究科 教授